
星と陽の間で 第8話
前回までのお話
日本にいる時は必要最低限の助けのみで育児をしてきた美子には、ヘルパーを雇うことで得られるものの多さが痛いほどよくわかっている。
美子の思いはヘルパーを雇うことで日本の女性がもっと幸せになるのでは、ということにまで拡がっていく…
「さすが美子、相変わらず熱いね。日本人でヘルパー雇ってる人ってやっぱ少ないの?」
「小さい子がいるところは雇ってはったりするけど、子供が小学生ぐらいってなるとぐっと減るかな。子供が大きくても仕事してはるとこは雇ってたりするけど。
あとはさっき言うたみたいに変な我慢と英語の壁かな。
まずヘルパー紹介してくれるエージェントは英語しか通じひんところが多いしね。
ヘルパー関連の記事とか情報源がほとんど英語しかない、っていうのが雇わへん大きい要因やと思うんやけどな」
「どうしたの?美子、ヘルパー関連の仕事でも始めるの?」
「…え?
佳奈、今なんて言うた?」
「あまりにも美子の思いが熱いからさ。ヘルパー関連の会社でも立ち上げるつもりなのかと思って」
「…その発想はなかったな。
そっか。”日本人雇用主増えたらいいな”とか、〝何かできひんかな”とか、漠然とは思ってたけど…
なるほどね、私がハード面を整えてビジネスにすればいいんか。
ちょっとそれ面白いかもしれん。真剣に考えてみるわ」
「映子にもお手伝いさん勧めてあげてよ。こっちに来たらお母さんもいないしご主人は出張多いし、どうやって子供を育てよう、ってすっごい不安がってたから」
「そういう人こそヘルパー雇わなアカンねん!
まかしといて。日本に帰りたくない、って言わせたる!」
「美子がいるから安心だわ。近々家探しに一度来るって言ってたからその時でもいいし、こっちに引っ越してきてからでもいいし、また会ってあげて」
「私はいつでもOKやから、って伝えといて。会えるの楽しみにしてるよー、って」
「ありがとね。よろしくお願いします」
「佳奈、保護者やな」
「ある意味そうかもね。なんかほっとけなくて」
私を〝保護者のようだ″と言った美子だが、私からしてみれば久々にあった美子の方がよほど頼もしく見えた。
聞きなれない関西弁のせいなのだろうか。
子供を産んでから10kg近く太ったと言っていたから、それもあの貫禄の構成要因なのかもしれない。
でも大学の頃とは別人のような美子は、大学の時とは全く違った自信と魅力に満ち溢れていた。
人はシンガポールに来ると何かが変わるのかもしれない。
この気温のせいなのか、いろんな人種の人たちと生活するせいなのか。
いずれにせよ、日本を出ることでコミュニティの結束力が強まるのは確かなようだ。
-映子はどんな女性になって帰ってくるんだろう-
佳奈は楽しみなような、羨ましいような、何とも言えない気持ちとブンガワンソロのパイナップルタルトを日本に持ち帰った。
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