• 小説 星と陽の間で
  • 夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。 そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

星と陽の間で 第10話


前回までのお話
昔からの友人・佳奈に紹介してもらったシンガポール在住の美子。
彼女とコンタクトを取り、いよいよ下見のために初来星することになった映子の目に、初めてのシンガポールはどう映るのだろうか…




-来ちゃった。シンガポール-

滞在先であるオーチャードのマンダリンホテルまではタクシーで約30分。
タクシー料金が日本に比べると格安なのでシンガポールの人は日本人よりもずっと気軽にタクシーを利用する。

専用アプリで行き先を登録すればタクシーが今どの辺にいるのか、あと何分で到着するのかがわかり、ドライバーにメッセージを送ったり電話をかけたりすることも可能らしい。
そしてクレジットカードと連携しているので降りる時に支払う手間もなければモチロン料金をぼったくられることもない。

タクシー乗り場でまずシンガポールの暑さの洗礼を受ける。
何層にもなってまとわりついてくるような湿度。息が苦しくなる。

何気なくタクシー待ちの列を見ていると欧米人の赤ちゃんの乗ったベビーカーを押している東南アジア系女性の姿を見かけた。

-親子? …ではなさそうだけど、どういう関係なんだろう-

順番が回ってきたので気にはなりながらも、ベビーカーとスーツケースを積んでもらうために「バックドアを開けてくれませんか?」と運転手さんに頼んだ。
すると運転手さんが「キャンキャン!」と笑顔で開けてくれた。
キャンキャン?どういう意味だろう?

そしてタクシーに乗り込み、よく冷やされた車内にホッとするのも束の間、送風口から容赦なく出てくる冷たい風に体温がどんどん奪われる。

「ここがシンガポールか」

整備された高速道路から見える景色は日本とは違い、マンションの窓から突き出た棒にかかる洗濯物や、サイズ感の全く違う街路樹にいちいち驚かされる。

「外国って感じがするね」と隣に座る夫の方を見ると、その窓の向こう側に荷台に座って携帯をいじっている男性たちの姿が見えた。

「え?人間?荷台に?! ここ、高速道路だよね?」

空港近くは少し田舎だから大目に見てくれるのかもね、と思いながら高速を降りホテル近くまでやってきた。

「ここまで来るとぐっと都会になるね。この辺がシンガポールの繁華街なのかな」と言いながら外の景色を見ていると、先ほどと同じように荷台に座っている男性たちのトラックが隣で信号待ちをしていた。

「あ、国内ぜんぶOKなんだ…」

都会だけれどどこか昭和の雰囲気が残るシンガポールにどことなく懐かしさを感じる。
横断歩道を渡る人々を見ていると空港で見かけた不思議な組み合わせをたくさん見かけた

欧米人の赤ちゃんだけではなく、日本人なのかアジア系の赤ちゃんと東南アジア系の女性の組み合わせもいる。

-もしかして、これがお手伝いさんなの?-
初めて見かけたお手伝いさんの姿は映子にとって違和感しかなかった。

目的地に着くまで人の良さそうな運転手さんは機嫌よく何かを話しかけてきてくれたが、彼が何語を話しているのか結局最後までわからず終いだった。

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