• 小説 星と陽の間で
  • 夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。 そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

星と陽の間で 第11話


前回までのお話
実際にシンガポールに来てみて、気温やシングリッシュ、様々な人種など日本との違いに戸惑う映子。
果たして自分はこの地で新しい生活を送ることができるのだろうか…




翌朝、7時近くなってようやく明るくなってきたシンガポールの朝に驚きながらホテルで朝ごはん。

少し前から離乳食を始めた芽衣には、日本から持ってきたレトルトの離乳食を食べさせる。

ビュッフェにお粥があったけど、あのお粥は芽衣に食べさせても大丈夫だろうか…などと考えながら初めてドラゴンフルーツを食べる。

-このあまり味のしないフルーツは何を楽しめばいいんだろう。食感…かな?-

そんなことを思いながら夫と今日の予定について確認する。

「今日は物件巡りか」

とりあえずエージェントにはオフィスのあるタンジョンパガーに通いやすいチョンバルと、日本人が多いサマセットを中心に、と頼んでいる。

あとはセントーサ島とイーストコーストの方も日本とは違った雰囲気で良さそうだから見に行ってみようかな。

とは言えシンガポールは狭い上にバスとMRT(電車)が島内を網羅しているのでどこに住んでもそこまでの不便はないらしい。

予想はしていたけれど、やはりここは外国、南国だということをいろんなところで気づかされる。

「日本のマンションとはやっぱり色々と違うねー」

いろんな場所の物件を見てきたが、大抵の家は床が大理石で天井にファンがついている。
バスタブのない物件もあり、基本的にどこも窓に網戸はついていない。
家の中にエレベーターが止まる物件もあれば、ルーフバルコニーにジャグジーのある物件もある。
マンション(こちらではコンドミニアム、略して〝コンド”と言うらしい)には共用施設としてプールやジムがついている。
コンドによってはバスケットコートがあったり、テニスコートがあったりもする。

少し日本っぽい物件もない事はないのだが、窓からは緑が見えたりタンカー船が見えたりと、どこかしらでやっぱりここはシンガポールなんだな、と思い出させる何かがある。

そして…
どの物件にもメイド用の部屋がある。
物件によってはシェルターとも呼ばれる部屋がメイド用の部屋として使われるらしい。
そこは大抵ダストシュート近くの3畳ほどの小さな部屋で、窓もなく、無機質で暗い、とても同じ物件内とは思えない部屋だった。
そして隣接するトイレ兼シャワーはお湯が出ない仕様になっていた。

昨日見かけたベビーカーを押していた女性たちはこういった所に住んでいるのだろうか。
何とも言えないザラザラした気持ちと埃っぽい空気が映子を包んだ。

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