• 小説 星と陽の間で
  • 夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。 そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

星と陽の間で 第12話


前回までのお話
シンガポール特有の住宅に戸惑う映子。
初めて見るヘルパールームの衝撃が強すぎて、大理石の床や窓から見えるタンカー船が霞んでしまう。
前の日にベビーカーを押していたヘルパーさんたちの姿が頭から離れない…


窓もない、エアコンもない。
きっとテレビなどの娯楽もないのだろう。
メイドさんたちはここでどうやって暮らすんだろう?
水しか出ないシャワーで一日の疲れをどうやって癒すのだろう。

私には無理だ。
同じ人間が一つ屋根の下こんなに違う環境で一緒に住むなんてできない。
朝あの部屋から出てきた人に、笑顔でおはようなんて言える自信がない。
ヘルパーなんだからそれで当たり前だ、と言える人間になりたくない。

「ここはー、物置かな?俺のゴルフバッグここに置くわ。な?
あれ?どうした映子、コワイ顔して。
ここは気に入らない?」

「ううん。そうじゃなくて。
お手伝いさんはこういうところで生活するのかなー、って思ったらちょっと、ね」

「え?ここ誰かの部屋なの?これはー、、、無理っしょ。
普通の人間はここには住めないし住ませちゃダメじゃね?」

「だよね。なんか私ちょっと悲しくなってきちゃった…」

「なんで?映子お手伝いさんに知り合いなんていた?」

「いないけど…なんか想像したらどんどん悲しくなってくる」

「え?なんで?そう思うなら雇わなきゃいいだけじゃね?」

「なんか、そういう問題じゃないと思うんだ…」

「でもさ、お手伝いさんとして働きたい、って人はこういう労働環境だってわかって来てるんだろ?本人がそれでいいって言うんならいいんじゃね?」

「そうなのかな。本人の問題なのかな…
でもパパさっき住ませちゃダメじゃね?って言ってなかった?」

「ん?んー、なんかさ、俺たちの常識ではアリエナイって思うことでも外国人にとってはいやいやフツーにアリでしょ、ってことも実は多いのかもな、とも思うわけよ。ここに住むなら自分の固定観念は捨てないとダメな時もあるのかもな、って。
だから第一印象は〝アリエナイ”だけどシンガポールに住むなら〝アリ”じゃね?と」

「…と、パパはこの短時間に固定観念を捨てたのね」

「ま、そういうことかな」

固定観念か…
夫の言っていることはなんとなくわかる気がする。
日本での常識がここシンガポールで同じように通用するとは私も思ってはいない。
お手伝いさんの部屋に限らずいろんな事に対してそうなのだろう。
郷に入っては郷に従え、ってことなのかな。
外国に住むということが急に現実味を帯びて私の目の前に立ちはだかった。

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