
トランスファーへの道のり11 ここへきて…
ヘルパーさんとのお別れの日まであと数日となったある日、私は「朝の用事と午後の用事までに時間があるので一旦帰ってくるかもしれないし、そのまま午後の用事に向かうかもしれない」と言い残し家を出た。
彼女はいつものように「ハイ、わかりました。えってけらっしょー」と言って私を送り出してくれた。
午前中の用事が思ったよりも早く終わり、私は一旦帰宅することにした。
家には誰もいなかった。
我が家のハウスルールでは外出するときは私の許可を得てから、となっているので何かあったのではないか、と心配し彼女の携帯に電話をしたりメッセージを送ったりしてみたが何の反応もなかった。
まさか逃亡?と思い彼女の部屋を覗いてみたが、特に変わった様子もなかった。
どうやら無断で外出していたようである。
私は裏切られた気持ちになった。
それは些細なことなのかもしれない。
仕事が終わったら子どもが帰ってくるまでの時間は自由に過ごして良い、私の許可を得れば外出も可というルールにもしている。
私の許可さえ取ってくれれば何のわだかまりもなく、気持ちよく送り出すのになぜ彼女は黙って私との約束を破ったのか。
私が無断の外出にそこまで固執するのは”彼女がNewでシンガポールの土地勘がないこと”、”普段携帯電話を持ち歩かないこと”が主な理由で、もし出先で何かの事故やトラブルに巻き込まれた時に彼女にたどり着くことができるように、という思いからである。
これまでの生活で彼女とは信頼関係を築けていたと信じていた私はお別れまであと数日、というところでの彼女の裏切り行為にとても落胆し、これまでの気持ちが一瞬にして冷めてしまった。
そうこうしていると彼女が荷物を抱えて帰ってきた。 私を見つけるなり「タダイマー。帰ってきてたんですねー」と悪びれる様子もなく部屋に入ってきた。
私はブチ切れていたので「電話もしたし、メッセージも送った。なぜ私に無断で外出したのか理由を述べよ」と淡々と質問した。
それに対し彼女は「すぐそこのショッピングモールに娘に送る靴を買いに行ってたんです。」と答えた。
「それは私の質問の答えではありません。私はどうして私の許可を取らずに外出したのか、と聞いています」という私の質問に対し「すぐそこだから言わなくてもいいかと思って…」というのが彼女の答えだった。
「あなたは私との約束を破りました。だから心底怒っています。
一言『行ってきます』と言えば済むところをなぜ言わなかったのですか?私が今まであなたが許可を求めてきたことに対してNoと言ったことがありますか?
今回のことで今までの行動も信じられなくなる事があなたにはわかりませんか?残念ですが、私には『あなたは私に隠れていろんな事をしていたのかもしれない』という気持ちが芽生えました。あともう少しなのに残念です。今まであなたを見ていた目と同じ目では見れません。約束を破る、ということは今まで築いてきたものを一瞬で失うということです。あなたにはがっかりしました」と伝えた。
良好だと信じていた関係が崩れた悔しさで涙が止まらなかった。
そんな私を見て事の重大さに気づいたのか「ごめんなさい。私を信じてください。私は嘘はつきません」と彼女は泣きながらハグしてきた。
彼女とは良いことがあっても悪いことがあっても感情が高まったときはハグをしてきたのだが、この時はギュッとハグをしてくる彼女の背中をポンポンと叩くぐらいしかできなかった。
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