• 小説 星と陽の間で
  • 夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。 そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

星と陽の間で 第16話


いよいよ初来星した映子。
実際に物件を見ることで、シンガポールに住むということがようやく現実味を帯びてきた。
そして、同じ日本人、同じ母でもある美子と話すことでカルチャーショックを受けた映子。
いつもと変わらないように見える夫も、少なからず思うところはあるようだ。
夫との価値観、シンガポールと日本の価値観の間で揺れる映子は、どんな気持ちでシンガポールに来るのだろうか…




「いやー、疲れた!気温差と気疲れと聞き取れない英語と!シンガポールに来たらこれが毎日かー。」

そう言いながらもどこか嬉しそうな夫。

せっかくシンガポールに来たのだから、とシンガポールフライヤーに乗り、マーライオンと写真だけは撮ってきた。

日中の暑さは大人でも堪える。7ヶ月の子供のとっては相当過酷だと思う。私はこの常夏の南国でどうやって子供を育てて行けばいいのだろう。

そんな私の気持ちを知ってか知らずか夫はなんの迷いもなくシンガポールに住むことを楽しみにしているように見える。
私は美子さんに会ったことで少し何かが変わるかも、と期待が持てたけれど、それはまだ今抱えている不安を払拭できるほどのものではない。

シンガポールに滞在した数日間。
マーライオンよりも美子さんの余韻に浸っている私は、タイガービールを飲みながら夜景を見ている夫に話しかけた。

「素敵な人だったね、美子さん。インテリアも素敵だった」

「外国っぽかったよな。木彫りの象とか日本人はなかなか置かないぜ」

夫は普段育児を手伝っていないことを指摘されたのが少しひっかかっているようだ。

「美子さん、コタローくんの他に男の子が二人いるって言ってたね。なのになんだろう、あの余裕は。」

「お手伝いさんじゃね?だってあの人、俺たちが行ってもなんにもしなかったぜ?」

「なんにも、って…そんなこともないでしょ。
でもお手伝いさんがいなかったらあんなに腰据えておしゃべりできないよね。コタローくんがぐずってもお手伝いさんがあやしてくれてたし」

「メシまで食わしてたじゃん、コタローくんに。あの人普段なにしてんだろうね。専業主婦なんでしょ?」

「う、うん…夜もコタローくんとお手伝いさん一緒に寝てるそうだし」

「じゃあ、あの部屋では寝てないのか。でも俺はやだなー。芽衣が他人と寝るとかあんま想像したくないわ。
仕事から帰ってきて家に他人がいるのもなー。くつろげないじゃん。」

夫の言うこともよくわかる。
私自身家族以外の人と一緒に暮らすことなんて想像もできない。

でもやってもみない内からそう決めてしまうのはどうなんだろう。意外と平気なのかもしれないし、それ以上のものが待っているかもしれない。

日本では経験できないことを経験しておくことはアリなのではないだろうか?

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