• 小説 星と陽の間で
  • 夫のシンガポール赴任に伴い来星することになった主人公・映子が、シンガポールと日本の価値観の間で揺れ動く。 そんな映子のこれから始まるシンガポール生活への不安や困惑、希望を描いたストーリー。

星と陽の間で 第18話 最終話


前回までのお話
表面上仲良く見えた夫婦だが、シンガポール赴任に伴う煩雑な日々のお陰でお互いの本心をぶつけ合うことになった二人。
シンガポールでの生活に対する不安が溢れ出た映子、そんな映子に気づかないふりをしてきた耕平。
2人は歩み寄ることができるのか?!




「どしたの、映子?突然…」

「突然じゃないよ!今までずーっとそうかもしれない、って思ってたことをようやく言葉にして伝えられただけ。
芽衣を産んでから私の中にずっとくすぶってた気持ちだよ!」

「映子、そんな風に思ってたんだ…」

夫がそう言ったきりしばらくの間、沈黙の時間が流れた。

溢れ出した思いを止められず、勢いに任せて言いたい事を言ってしまったけど、夫はどう思ったんだろう。

逃げ出したいけど、右も左もわからない外国で外に飛び出す勇気もない。どうしよう、ここから逃げたい…

それから何分経ったのだろう。
いや、実際はほんの一瞬なのかもしれない。
でも私には何時間にも感じられた長い沈黙を破ったのは夫の方だった。

「…。
言い訳に聞こえるかもしれないけど、俺、仕事で結果さえ残せればそれでいいと思ってた。いい業績残して給料が上がればそれで家族は幸せなんだ、って。
俺だってシンガポールに来るのはプレッシャーなんだ。
いい結果残せなかったら日本に戻ってからのポストどうなるかわかんないし。
それを映子に悟られたくなかったから、必死で仮面を被ってたのかも。

…ゴメンな。

俺、映子に甘えてたんだわ、きっと。
映子にそんな風に思わせてたなら全然ダメじゃんね、俺。

心入れ替えなくちゃダメだな。
大事な嫁さんと娘、ちゃんと守らなくちゃだよな。」

-耕平くんは耕平くんで、押しつぶされそうな不安を抱えながら毎日仕事も頑張ってたんだ。
不器用な彼は、自分自身の不安を隠すために必死でシンガポール行きを楽しんでるように見せていたんだ。私まで不安にならないように。彼なりの優しさだったのかもしれないな。
全然気付かなかったけど-

人はシンガポールに来ると何かが変わるのかもしれない。
この気温のせいなのか、いろんな人種の人たちと生活するせいなのか。
いずれにせよ、日本を出ることでコミュニティの結束力が強まるのは確かなようだ。

きっと私も夫もシンガポール赴任をきっかけに大きく変わる。
何がどう変わるのかはまだわからない。

でも、
-早くシンガポールで生活を始めたい!-
そう思えることが、彼女が変わり始めた最初の一歩なのかもしれない。

 


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