
壁 - 教師の私 駐妻の私 – 【第1話】
奥野 貴美子 35歳
生後2ヶ月の娘を連れて夫の転勤に伴い、半年前に来星。
夫は3歳年下で日系企業に勤務、夫婦仲は良好。
来星を期に天職だと思っていた小学校教諭の職を辞し、子育てと主婦業に専念している。
在職中は児童と共に目標を掲げ、その目標を達成することに特に喜びを感じてきた。
みんなで何かをやり遂げる素晴らしさ。成し得た時の満足感。
これ以上の幸せはないのではないか、とさえ思うほどだった。
毎日ToDoリストにやるべき事を書き出し、達成したものに線を引いて消していく。
終わった時の満足感を味わうために。
在職中はそれが私のモチベーションだった。
主婦になり、子どもを産んだ。
同じように日々のやるべきことを書き出すのだが、書き出したリストの内の半分も終わらない。
前日やり残したことが雪だるま式に増えていく。
何かを始めようとすると娘が泣き出す。
予定の時間に娘が寝てくれない。
あと少しでアイロンをかけ終わるのに泣き出した。
授乳してから起きるまでの時間を計算したはずなのに。
娘が生まれてから何一つ思い通りにいかない。
何も終わらない、何も満足しない。
シンガポールに来てからというもの、何もかもが上手くいかない。
こんなはずではなかったのに。
私はこんなに何もできない人間ではなかったはずなのに。
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