• 小説 壁 - 教師の私 駐妻の私 -
  • 夫のシンガポール駐在に帯同するためにキャリアを諦めて来星した主人公・奥野 貴美子。慣れない子育てと初めての海外での専業主婦業により、今までの生活とは全く違う生活に自分自身の存在価値を見失いかけていた。そこで夫から提案されたヘルパー雇用という道。奥野 貴美子はヘルパー雇用を通してどう変わっていくのか。

壁 - 教師の私 駐妻の私 – 【第3話】

【前回までのお話】 第2話
勇気を出して話しかけてみた結果、想像を遥かに超えるヘルパーとの生活が見えてきた。海外での生活を送ったことのない主人公・奥野 貴美子にとって、その世界は容易に受け入れられるものではなかった。
が、ここシンガポールで働く夫たちは出張が多く不在がち。実家も親戚もいない海外で夫の留守を守る妻たちの精神的負担は相当のものである。そんな妻たちの負担を軽減してくれるヘルパーさん。一方ではあまり良くない噂も耳にするが…

「私はちょっと無理です。他人に自分の子どもを任せるなんて。子どもがかわいそうです」

こう思う人がいることも確かだ。ただ、彼女のように面と向かってこんな風に言える人はなかなかいない。
奥野さん、なかなかの人物だ。

「そう思う人は全部自分でやったらええんちゃう?
私は寝不足でイライラせんようになった分、子どもに優しくできるようになったし、自分の好きなことできるようになった分、笑ってられる時間が増えた気がするわ。
日本におる時よりぜんぜん楽しいで。
自分の好きなことできるっていうのも大きいけど、母親二人体制っていうの?
ダンナもモチロン育児手伝ってくれるけど断然関わってる時間が違うわけやん?
四六時中子どものこと見てる保育者が自分以外にもおるってめっちゃ心強いで。
しかもウチのヘルパーは国で自分の子ども育ててたから経験者やしな。

家事から解放されて身体が楽になっただけじゃなく、気持ちが楽になったな。
しかもウチのダンナ出張多いから留守中は大人1人で子どもを見なアカンわけやん?
これがけっこう精神的にキツくてさ」

これはサキちゃんに限らず、シンガポールに住む奥様たちには共通する悩みではないだろうか。
自営・駐在に限らず、月の半分ぐらいはご主人が出張に出てしまい異国の地でのワンオペ育児を強いられている家庭が多い。

言葉の壁、文化の壁を乗り越えながらの留守番は我々に相当な精神的ダメージをもたらす。
私ですら、ヘルパーを雇う前は夫が出張から戻るたびに寝込んでいた。

「それは、私もそうです…」

-さすがの奥野さんでもやっぱりそうか。
で、なんでこの人は急に私らに話しかけてきたんやろう?-

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