• 小説 壁 - 教師の私 駐妻の私 -
  • 夫のシンガポール駐在に帯同するためにキャリアを諦めて来星した主人公・奥野 貴美子。慣れない子育てと初めての海外での専業主婦業により、今までの生活とは全く違う生活に自分自身の存在価値を見失いかけていた。そこで夫から提案されたヘルパー雇用という道。奥野 貴美子はヘルパー雇用を通してどう変わっていくのか。

壁 - 教師の私 駐妻の私 – 【第5話】

【前回までのお話】 第4話はこちら

気になっていたヘルパーの話。実際に雇っている人から聞く話はネット情報とはまた違ったものだった。思わず長時間話し込んでしまい、気分が悪くなった主人公・奥野 貴美子。この人とは仲良くなることはないだろうと思っていた相手・美子と思いがけぬ形でお茶をすることになったのだが…

「で、カラマンシージュースはどうよ?」

「美味しいです。甘過ぎず、酸っぱ過ぎず、ちょうどいい!なんだかスッキリしました。なんか、すみません。お付き合いいただいてしまって…」

「そんなん気にせんとって!私も初めてこうやって奥野さんと話できて嬉しかった。そうや!連絡先聞いてもいい?LINE?ワッツアップ?」

「LINEで大丈夫です。ワッツアップ、よくわからなくて…」

「日本人同士はだいたいLINEよね。外国人はワッツアップなんよねー。上の子とかクラスごとにワッツアップグループがあるから大変なんよ」

「お子さん、3人でしたっけ?育児のことも含めてまた色々お話伺ってもいいですか?」

「喜んで!! いつでもLINEしてきて!」

恐らくこの人とは絶対に関わり合うことはないと思っていた美子さん。

挨拶ぐらいしか交わしたことのない私に付き添い、こんなに気安く話してくれるなんてとても意外だった。雰囲気で人を判断するのは私の悪い癖だ。私は美子さんのようにとりあえず誰でもウェルカムな人にはなれないとわかっているから羨ましく思うんだろう。

駐在員の妻である私とは違う世界に住む駐妻とは “日々なんの苦労もなく毎日のように友人とカフェに入り浸り、実のない話ばかりを繰り返しているだけの人種” だと思っていたが、実際に話をしてみると意外と彼女たちにしかわからない苦労もあるようだ。いつ自分や友人が本帰国やスライド(駐在先から日本以外の国に赴任になること)になるのかもわからない状況で気の合う仲間を探し、そこで子どものための情報収集や慣れない生活のストレス発散をすることは私が思っている以上に必要なことなのかも知れない。

夫がシンガポールで起業している美子さん自身は駐妻ではないようだが、彼女のこの性格も美子さんが本来持つ性格にそんな環境がプラスされて形成されているのではないか。

もしかしたら駐妻と呼ばれる人たちも、私が思っているような人種ではないのかもしれない。

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