
シンガポールで働くヘルパー(メイド)の実態【前半】
本記事はSWEE KNOT PTD. LTD.( &H)のファウンダーの一人である吉田麻里がシンガポール日本商工会議所 2020年5月月報に寄稿した記事である。
前後半の2回に渡りお届けする。前半ではヘルパーの歴史やヘルパーを対象としたアンケートを元に彼女たちがシンガポールで働く理由について触れる。

シンガポールで生活をしていると母親ではないアジア人女性がベビーカーを押している姿を目にすることがある。その女性はおそらくシンガポールの暮らしの中で欠くことができないヘルパーだろう。雇用主の自宅に住み込みで働き、生活を共にするヘルパーたちは、雇用主の家庭を支え、シンガポールで働く女性活躍の一端を担っているとも考えられる。本稿ではシンガポールで働くヘルパーと、彼女たちと一緒に生活をする雇用主の実態について触れていく。 なおMOM(Ministry of Manpower:労働省)は、ヘルパーとして働く人FDW(Foreign domestic worker)と定義し、一般的にドメスティックヘルパー、メイドやアマさんとも呼ばれることもあるが、本稿では現在シンガポールで多くの雇用主が呼称する「ヘルパー」という言葉を使用して紹介していく。
シンガポールとヘルパーの歴史
シンガポールはマレーシアから独立する以前より、家庭で働く女性外国人を雇用してきた。1978年にForeign Maid Scheme(外国人メイド制度)が制定され、マレーシア人を中心にフィリピン人、インド人、バングラディッシュ人など約5,000人を受け入れ、その後1988 年には約4 万人にも上った。
1990年代にヘルパーを虐待する事件が多発したため、1997年にはヘルパーを保護するために外国人雇用法が改正された。ヘルパーを対象とした保険購入の義務化などが導入され、これらが現在のヘルパー雇用ルールの基盤となっている。*1
シンガポールの女性と家庭を支えるヘルパー
シンガポールにおける女性の活躍をヘルパーが下支えしていると言っても過言ではないだろう。シンガポールはマタニティーリーブ(産前・産後の休暇)が日本よりも短い。シンガポール政府は、生まれてくる子どもがシンガポール人の場合は16週間(約4カ月)、日本人を始めとする外国人の場合は12週間(約3カ月)と規定している。チャイルドケアなどの選択肢もあるが、費用が高いこともありヘルパーを雇用して職場に復帰するケースが多い。
シンガポール政府は、1991年に少子化対策としてヘルパーを雇用する母親が税金控除を受けられる制度を導入した。この制度は2004年には12歳未満または65歳以上の家族がいる家庭向けに適用されるように改定されている。さらに、2012年には高齢化による介護施設不足を解消するために、低所得層および中間所得層の家庭に対して、ヘルパー雇用のための助成金として月額120ドルを支給した。*1
このようにシンガポール政府は、ヘルパーに子どもや高齢者のケアを手助けしてもらうことで、家庭の負担の軽減を図っていることが見て取れる。

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