• 小説 壁 - 教師の私 駐妻の私 -
  • 夫のシンガポール駐在に帯同するためにキャリアを諦めて来星した主人公・奥野 貴美子。慣れない子育てと初めての海外での専業主婦業により、今までの生活とは全く違う生活に自分自身の存在価値を見失いかけていた。そこで夫から提案されたヘルパー雇用という道。奥野 貴美子はヘルパー雇用を通してどう変わっていくのか。

壁 - 教師の私 駐妻の私 – 【第13話】

【前回までのお話】 第12話はこちら
姉・貴美子の代わりにエージェンシーに出向き、面接用のビデオを見た由貴子。違いがわからないと言いながらも候補を絞って貴美子に伝えるのだが、ヘルパーの面接に関しては全く想像もつかない貴美子にとってはなんのことだかわからない。
そんな話をしながら娘・さくらに食事を与えようとする由貴子の姿を見て驚く貴美子。同じ家庭で育った姉妹なのにこの考え方の差は…

「え、だって洗濯大変じゃん。これだけ暑いんだから着てなくても大丈夫だよ。おむつはしてるし。ホラ、さくら服脱ぐよ。バナナ食べよっか。え?丸ごとよこせって?それはダメだよ。喉につかえちゃう。今日のバナナは黒いポツポツあるから甘いぞー。昨日より柔らかくなってるでしょ?」

「え、ちょっと!握り潰してるじゃない!半分以上口に入ってないんだけど!ちょっと!フォークも使ってないの?!小さく切ったバナナをフォークに刺す練習してたんだけど!」

「やだわー。そんなこと言われたらイライラして食べる気失くすよ。手でちぎったバナナ渡したら握ったりその辺になすりつけたりして気が済んだら食べてるよ。すっごい真剣な顔してやってたり、すっごい嬉しそうな顔してやってたり。子どもって面白いよね」

「え、ちょっと待ってよ。そんなことしてたらいつまで経ってもフォーク使えないじゃない」

「今はその時期じゃなくない?さくら食べるの好きみたいだし、今はいろんな感覚養うほうが大事じゃない?」

「由貴子は親じゃないからそんな無責任なことが言えるのよ!さくらが食べるの好き?あの子、全然食べない子よ?」

「うそでしょー?!もうやめなよ、っていうぐらい食べてるよ。その代わり食べ終わった後のテーブルの下とかヤバイけどね」

「え?食べなくて困ってたのに…なんで?」

「さぁ。お姉ちゃんがギャーギャー言うから食べる気なくしてたんじゃない?」

「え…、そんな…。でもいつまで経ってもフォーク…」

「私の周りで未だに手づかみで食べてる大人はいないから大丈夫だよ!そのうち使えるようになるって。もういいから横になっときなよ。後片付けはしておくし。私が帰ったらまたお姉ちゃんの好きなようにやったらいいじゃん。私はそんな堅苦しいことさくらに強要したくないからこのままでいくよ。手づかみ食べって発育にもいいんでしょ?」

「そうかもしれないけど…」

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