
壁 - 教師の私 駐妻の私 – 【第14話】
姉妹でありながらも子どもに対する接し方が大きく違うことを知り、全く目線や方法の違う人間と一緒に子育てをすることは子どもの可能性を広げることに気付いたことでヘルパー(メイド)と一緒に子育てすることに少し前向きになってきた貴美子。由貴子が持ち帰った何人かのバイオデータを見てこの人だと決めて美子と由貴子と共にエージェンシーに向かった貴美子だが…
「お姉ちゃん、さくらニオうね」
「え、ホント?おむつ替えなくちゃ?美子さんスミマセン、エージェンシー行く前にお手洗いに寄ってもいいですか?」
「モチロンよ!トイレ、どこにあったかな…ちょっと聞いてくるわ」
「ありがとうございます!」
おむつの汚れからくる不快感からか、薄暗く独特の香りがするこの建物の雰囲気のせいなのか、さくらの機嫌がすこぶる悪く、珍しく大きな声で泣き出したさくらに一人の女性が近づいてきた。
何を話しているのかは分からないが「オーケー、オーケー」と優しく姪に語りかけてくれているのだけはわかった。
「お待たせ!ここ真っ直ぐ行って右に曲がったらあるらしいけど、おむつ替えれるかどうかはわからんて。・・・で、この人だれ?」
「わかんないです。さくらがぐずってたら近づいてきて。あやしてくれてるみたいなんですけど何言ってるのかわからなくて。でもさくら機嫌なおってて。お姉ちゃんもポカンとしてる」
「とりあえずおむつ替えてきたら?13時に行くって言ってあるから。私ここで待ってるし」
「わかりました!じゃあ行ってきます」
そう言うと姉は「ダイアパー、クサイ、チェンジ、トイレット」と言いながらさくらのお尻をポンポンと叩き、鼻をつまみながら話しかけてきてくれた女性に説明し、彼女は「オーケーオーケー」と言いながら見送っていた。
「お姉ちゃん、そんなことできるんだ…」
体面ばかりを気にする姉が、初対面の人とはめったに会話をしない姉が、なりふり構わずよくわからない言葉でコミュニケーションを取ろうとしている姿は、私の目にはとても不思議な光景に映った。
そして意思の疎通ができていることにも驚いた。さっさと行ってしまった姉を追いかけトイレまで来たものの、案の定おむつ替えスペースはない。
仕方なくベビーカーにおむつシートを広げ、おむつの交換をして戻ると美子さんが私たちにこう言った。
「ちょっと先行っててもらっていい?この人、この先のエージェンシーに登録してるヘルパーさんっぽい。ちょっとこの人と一緒にエージェンシーに行ってみよかな、と思って。なんかあったら電話してきてもらえる?」
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