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◼️News◼️ ホームクリーニング制度は住み込みのヘルパー(メイド)の代わりになるのか? Can home cleaning scheme replace live-in maids?

ミャンマーからシンガポールに来たPoe Ei Sanさん(25歳)は、シンガポールで看護師の仕事が見つけることができず、代わりに家の掃除をする仕事をしている。

ヤンゴン大学を卒業した彼女は、毎日トイレを洗い、床を磨き、キッチンを拭いている。「ミャンマーは低賃金で不安定なので、多くの若者が海外で仕事を探しています」と彼女は言う。

The Household Services Scheme (HSS)の制度は、企業がミャンマー、タイ、インド、スリランカなどから出稼ぎ労働者を雇い、家庭にパートタイムの清掃サービスを提供するというもので、5年前から実施されている。

HSSは主にパートタイム雇用の需要を満たし、ひいてはシンガポールの住み込みヘルパー(メイド)への依存度を下げることを目的としている。

シンガポールで働く住み込みヘルパー(メイド)の人口は過去10年間で約40%増加し、2018年時点で25万人以上が働いている。労働省(Ministry of Manpower(以下、MOM))は「ヘルパー(メイド)として働く労働者の人口が増加することは、持続可能なことではない」と述べている。

長年に渡り、シンガポールの140万世帯が家事、料理、高齢者や子ども、ペットの世話などをヘルパー(メイド)に大きく依存してきた。ヘルパー(メイド)は主にアジアの貧しい国からシンガポールに働きに来ており、シンガポール人就労者に与えられているような給与や特権はない。

HSSでは家事労働をより正式な業務とみなし、現在ヘルパー(メイド)が得られない給料や権利が清掃員として与えられる。

代替的な役割

Covid-19の影響で国境が閉鎖されヘルパー(メイド)が不足している中、MOMは2021年8月25日にHSSを恒久的な制度とし、その範囲をハウスクリーニングだけでなく食料品の買い出し、洗車、ペットシッターなどのサービスにまで拡大すると発表した。

また、この制度を利用してカンボジアから清掃員を雇用することも可能になる。HSSの清掃員は現在、1万世帯以上の家庭にサービスを提供している。

約40社が利用しているHSS清掃員の予約プラットフォーム「Helpling」では、ミャンマー出身の元ヘルパー(メイド)がの90%を占めている、とマネージング・ディレクターのZhong Jingjing氏は語る。

清掃会社Fresh Cleaningのセールス&マーケティング・マネージャーであるDominic Lim氏は、ミャンマー人コミュニティでは住み込みヘルパー(メイド)の代わりに清掃員として働くという選択肢があることはよく知られていると言う。ミャンマーは現在、シンガポールにとってヘルパー(メイド)の重要な労働力の供給源となってるいる。

ヘルパー(メイド)とは異なりHSSの清掃員は複数の家庭を担当し、自分の宿舎に住み、雇用法で保護されている。雇用法では最大週44時間の労働時間、最低1.5倍の残業代、7日間の年次休暇、14日の病欠、週1回の休息日が規定されている。

一方、住み込みヘルパー(メイド)の場合は「受け入れ可能な」宿泊施設と「十分な」休息をとることだけが規定されている。取材に応じなかったが、MOMはウェブサイトに「住み込みヘルパー(メイド)は家庭環境で働いており、家庭の習慣は多様であるため雇用法の条件を強制することは難しい」と記載している。

専門家によると、HSSの副次的なメリットは、ヘルパー(メイド)よりも給料が高く保護が強化されているため清掃員が虐待される可能性が低くなることだという。しかし、HSSで働く清掃員の数が少ないため、これらの利点を享受できる人数は限られているという。Helpling社のZhong氏は、清掃員の人数はわずか1,000〜2,000人と見積もっているが、公式な統計は発表されていない。

HSSは、ヘルパー(メイド)の虐待の背景に根付く核心的な理由である「移民労働者は劣った存在であり、家事労働は下等な仕事である」という認識を払拭するものではない。そのためヘルパー(メイド)と同様、清掃員も依然として危険にさらされていることには変わりない。

2019年時点で、シンガポールでは5世帯のうち1世帯がメイドを雇っており、30年前の13世帯に1世帯程度から増加している。共稼ぎの家庭が多いシンガポールでは、女性が働けるように家事を外注する手段としてヘルパー(メイド)雇用の需要が高い。

しかし、Covid-19によってもたらされた国境管理の強化により、ヘルパー(メイド)の流入が制限され、パートタイムの清掃の需要が高まっていると、インタビューに応じた4社の清掃会社が語った。MOMによると、HSSに登録している企業は2019年の50社から2021年には76社に急増している。

Helpling社の顧客は以前は駐在員が多かったが、現在はシンガポール人が中心で特にPunggolやChoa Chu Kangなどの新しい団地に住む若い家族が多いという。

別の清掃会社であるUnited Channel Construction & Facility Services社は、主にコンドミニアムに住む人々を顧客としているが、週に5日も清掃員を予約する顧客もいるという。ミャンマー人の住み込みヘルパー(メイド)を専門に扱うエージェンシーも運営している同社によると、ヘルパー(メイド)の空きを待っている間にパートタイムの清掃員を雇っていた何人かの顧客は、その後パートタイムの雇用に心変わりしたという。

マネージャーのFlora Sha氏によると、彼女たちは食事を選べ、部屋を独りで自由に使える点を気に入っていると言う。

しかし、パンデミックの影響でパートタイムの清掃の需要は高まっているものの、多くの企業は、国境が開きヘルパー(メイド)が戻ってくれば、この需要はなくなるだろうと考えており、このスキームによってヘルパー(メイド)の福祉を大規模に改善できる可能性は事実上難しいだろう。

すでに、ヘルパー(メイド)の供給を増やすための試験的な計画が開始されており、100人以上のヘルパー(メイド)の第一陣が2021年8月中に到着する予定だった。約2,000世帯が雇用に関心を示しているという。

金銭的な問題

清掃会社A1 Facility Services社のオペレーションマネージャーであるTan Hui Bin氏は、ヘルパー(メイド)の給料を上げることはHSSの清掃員の需要を維持するための効果的な方法であり、価格差は小さくなると述べた。各社はパートタイムのホームクリーニングを時給20〜25ドル程度で提供しており、時間帯は2〜8時間である。

メイドが固定給であるのに対し、清掃員の給料は基本給、食費、交通費、残業代、インセンティブなどで構成されている。その結果、総支給額はヘルパー(メイド)の2倍から3倍にのぼる。

週に3時間のホームクリーニングへの依頼で月に240〜300ドル、フルタイムのヘルパー(メイド)の雇用で月に450〜650ドル(税別)となる。

福祉団体「Humanitarian Organisation for Migration Economics(Home)」の広報担当者は、HSSの清掃員がヘルパー(メイド)に取って代わることは「あり得ない」とし、シンガポール人は「ベビーシッター、ペットシッター、料理、家事、車の掃除など、様々な役割を担うヘルパー(メイド)の助けを非常に安い料金で享受することに慣れている」と述べている。なおシンガポールの昨年の世帯収入の中央値は、月7,744ドルである。

一番の目的とは異なるが、HSSの大きな利点の1つは、虐待のリスクが低いことだ。法律の専門家や福祉団体によると、HSSの制度には住み込みヘルパー(メイド)に見受けられる孤立や、電話にアクセスできない環境といった虐待を受けやすい要素が低いと考えられている。

ヘルパー(メイド)の虐待事件を担当している弁護士のAmarjit Singh Sidhu氏によると、清掃員は社会との交流が多いため虐待を報告する機会が増えるという。

シンガポールマネジメント大学のEugene Tan准教授(法律学)は、清掃員は勤め先の家庭とは別の場所に住んでいるため清掃員が虐待を受ける機会が少ないと指摘する。また、居住地と勤務地が明確に区別されることで清掃員の権利、福祉、利益がより保護されるようになるという。

シンガポールでは近年、ヘルパー(メイド)の虐待が注目されており、最近では24歳のヘルパー(メイド)Piang Ngaih Donさんが死亡するという事件が起きた。2017年から2020年の間に、ヘルパー(メイド)の虐待に関する警察への届出は毎年約270件あった。

冒頭で紹介した清掃員のPoeさんは、Piang Ngaih Donさんが死亡したニュースを目にし、住み込みヘルパー(メイド)の仕事の危険性をよく把握しているという。Piang Ngaih Donさんは14ヵ月間に渡り、拷問と飢餓に耐え、火傷、殴打、窒息などを繰り返し、体重は15kgも減り、最後の夜は窓の格子に鎖で繋がれて床で眠ったという。

清掃員のPoeさんは、ミャンマー中部のホテルでウェイトレスとして働きながらシンガポールでの就職を考えていた時にこのニュースを目にしたという。「それ以来、ヘルパー(メイド)にはなりたくないと思った。雇い主にいじめられても誰にも気がつきませんからね」と彼女は言う。

下等な仕事

しかし、労働条件が改善されたにもかかわらずHSSの清掃員は悪質な雇用主の標的となっていると、海外労働者の支援団体Homeの広報担当者は語った。同団体は、過労や給料未払いなどの問題で年に10〜20人の清掃員を支援している。

ヘルパー(メイド)や清掃員への虐待は家事労働を軽視し、外国人労働者を劣等感の対象と見なす態度に起因すると彼女は付け加えた。

「多くの雇用主は、移民労働者の仕事に感謝すべきだと考えている。労働者を所有しているという意識を持っているのことが問題だ。雇用主が家事労働とヘルパー(メイド)の両方を低く評価するため、虐待が発生する」と彼女は言う。

インタビューを行った清掃会社は肉体的な虐待のケースは見たことがないと答えているが、中には言葉の暴力が起きたケースもある。Helpling社のブラックリストには、暴言を吐いたり料金を支払わなかったりする顧客が約700人登録されている。またUnited Channel社によると、30%の顧客が清掃員を怒鳴りつけているという。

Homeの広報担当者は、清掃員は孤立感が少ないためヘルパー(メイド)よりも虐待の経験が少ないかもしれないと言う。しかし、虐待を根絶する方法の1つは家事労働を尊厳あるものにすることだと述べた。

そのためには、家事労働が社会の円滑な運営に貢献していることを人々が認識する必要がある。ヘルパー(メイド)不足の中、シンガポール人の中には自分がいかにヘルパー(メイド)に依存しているかを実感している人もいる」と付け加えている。

MOMは、HSSのサービス範囲を将来的にさらに拡大できるかどうかを評価すると述べている。

2012年初め、当時の労働大臣Josephine Teo(現コミュニケーション・情報大臣)は介護もそのようなサービスの1つになり得ると述べたが、一部の方面からは虐待のリスクが懸念されている。

Association of Women for Action and Research(行動と研究のための女性協会)のMargaret Thomas会長によると、高齢者の世話をするヘルパー(メイド)は重労働を強いられる上、認知症の患者からの虐待を受けやすいという。

United Channel社のマネージャーであるSha氏によると、認知症患者を介護する中で物を投げたり介護者の髪を引っ張ったりと暴力的なことが起こることがある。

このような傾向はあるが、清掃員のPoeさんはシンガポールでの介護の仕事を望んでいる。彼女はミャンマーで看護師になることを夢見ており、シンガポールでの介護の経験が帰国後に病院での仕事を見つけることに役立つのではと考えている。

「お年寄りに虐待される可能性があるかもしれませんが我慢できます。HSSでは会社がスタッフに対して責任を持つためヘルパー(メイド)よりはよい労働環境だと思っています」

・筆者はフリーランスのジャーナリストである 
・当記事はFriedrich Naumann Foundation for Freedom財団の資金援助と研修を受けて書かれている

【これは元記事を抄訳したものです】 
https://www.straitstimes.com/singapore/can-home-cleaning-scheme-replace-live-in-maids

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